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こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

「町内会」

【1】
堤防の外側には、民家が並んだところもある。その1か所に、堤防の裾にコンクリートの構造物がある。建設省が作った物ではない。民家の人が、境界を越えて作ったものだ。畑に堤防の土が流れてこないように作った土留めのようだ。
俺は車を降りて、その構造物を眺めていた。なぜ、建設中に止められなかったんだろう。強引に作られてしまったんだろうか。
その家の人が出てきた。俺は「こんにちは」とあいさつしただけだった。その人は、
「これは、これは親父が作った物なんだ。親父はもう亡くなっている。」と必死に弁明らしきことを言っている。
「これから壊すのもたいへんだし、実際には堤防の補強にもなってるんだし、これはこれでいいと思うんですけど、問題は、これを見た周りの人なんですよね。境界を越えて構造物を作ってもいいのかということになる」

【2】
ある日、堤防の上をパトロールカーで移動していたら、下から構造物の家の人らしき人物が手を振っている。どうやら、俺を呼んでいるようだ。
俺が堤防を駆け下りて行ってみた。その家人が言う。
「この構造物について、町内会の人とも話し合ってみたんだけど、俺としては、親父がやったことなんで、自分は関係ないと思ってるんだ。違うことをいう町内会の人もいるんだけどね」
すると、家の陰から数人が歩いて近づいてくる音が聞こえた。なんだ、と見ると、数人の男たちが無表情のまま近づいてくる。
俺は斜めに構えて警戒していた。何者なんだこの男たちは。しかも確実に俺に向かってゆっくり近づいてくる。
「ごくろうさまです」と口々に言っている。
俺も「こんにちは」とあいさつした。

【3】
数人の男たちは、けんか腰で向かってきたのかと思ったら、そうではないようだ。
「その構造物の話が、町内会の会合で出たんだけど。確かに建設省の土地に勝手に作ってるんだから悪いことなんだけど、作った本人が亡くなってるんだし」
「ボクの意見ですけど、もうすでに出来上がってるし、実際には堤防の補強にもなってるんで、これは、壊さなくていいと思うんです。解体するのに費用がかかるし」
もう少し意見を続けた。
「この構造物を見た人が『境界超えてもいいのか』と真似をされるのが怖いんです」
「俺たちは、ここの町内会の者だけど、真似をしようという気はないから」
「それならいいんですけど、境界を越えていいのか、1mならいいのか、5mならいいのかってエスカレートしていくのが怖いんです。堤防が壊れてしまいますからね」

【4】
お金の話をしたほうがわかりやすいかなと話した。
「例えば、洪水の時、堤防を削った場所から決壊したとしたら、家が流されて、人が死んでも、損害賠償は建設省が支払うべきですか?それとも壊した本人が支払うべきですか?」
「それは…壊した本人だろうけど…」
「でしょう。だから堤防の管理はすべて建設省にまかせて、個人ではいじらないでほしいんです」
「わかった。管理は建設省に任せるよ」
ということで、話はまとまった。
出張所に戻って、報告した。
「住民に事情を聞いていただけなんですけど、話はまとまったようです」
(終)


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